第36章 どうか俺と
千は、根っこからクリエイティブな人間だ。きっと春人と千は、似通った性質を持っているのだろう。
通じるものがあったからこそ、千には あの曲の作者が分かったのだと思う。
そして。TRIGGERへ楽曲を提供している、謎の作曲者 “ H ” の正体が、中崎春人である事も知っているようだ。
「相変わらず、千は俺の想像の上を行ってくれるな」
「それは褒められてると思っても良いのかな?」
「勿論」
「なら、嬉しいよ」
「それと、少し気になったんだけど
珍しいな?千が男を “ ちゃん ” 付けで呼ぶなんて」
「…特別、気に入ってるんだ。ちなみに、モモも春人ちゃんの事は大のお気に入りだよ」
「へぇ。なんだか俺も、ますます会いたくなったな」
こうなると、あの夜ニアミスで会えなかったのが余計に悔やまれる。
しかし、彼とは近々会えるという予感があった。何故なら、俺は正式に MEZZO" のマネージャーに就任したからである。
いま現在決まっているスケジュールは、これまで同様 紡が付き人を務めるが。次に新しく入る仕事からは、俺が MEZZO" に付き添う事が決まっている。
だから、TRIGGERと現場が同じになれば 必然的に彼とも会う事になる。
「紡さん、絶対口にはしないけど、彼に会える機会が減って 寂しいだろうなぁ」
「??
どうして彼女が、春人ちゃんに会えなくて寂しいのさ」
「あぁ…どうやら、彼の事が気になってるみたいなんだよ」
「え。それって、恋愛的な意味で?」
「十中八九な」
「っぷ…」
「千?」
千は 手で口を覆って、俺に背を向け 顔を大きく逸らした。その背中は小刻みに震えている。どうやら笑いを堪えているようだ。
相変わらず、笑いの沸点が低い。というか、ツボがおかしい。
「ん?いや、違うな…これは笑ってる場合じゃないのかもしれない。結構ややこしい話になる、かも…」ぶつぶつ
「??
で、この話にはまだ続きがあるんだよ。
社長もどうやら、彼女の気持ちに気がついてるみたいで。やたらと中崎春人くんを目の敵にするからもう大変で」
「っぷ…!っ、く、くくっ…」
「なんで笑いが再発するんだよ…」