第35章 いつのまにか、その種は芽吹いてた
「あーー!もう腹ぱんっぱん!
ご馳走様でした」
『うん!ほんと美味しかったね。ご馳走様でした』
「やっぱここの蕎麦は間違いないな。ごっそーさん」
私達は皆一様に、丁寧に手を合わせてご馳走様を言う。
「そう言ってもらえて良かったです。お粗末様」
『おいくらですか?』
「お代はいいですよ!俺から誘ったんですから」
『いやでも悪いですよ。それに、本当に美味しかったので支払いはさせて下さい』
「困ったな…
あ!じゃあ、料金の代わりに連絡さ」
楽が最後まで言い終わる前に、環が両手を挙げて大声を張り上げる。
「なーなー!この後どこ行く!?腹一杯になったから、身体動かしたい!」
『いいね!じゃあゲームセンターか、スポーツッチャとか!』
「最高ー!両方行こうぜー!」
「はいはい楽しそうだな。んじゃタマ。エリ連れて先に表出てなさい。お兄さんは、蕎麦屋さんにお金払ってから行くから」
「うーす。まぁでもべつにヤマさんは来なくていいけど」
環は大和に言われた通り、私の背を押して外へと向かう。
私は最後に店内を振り返り、楽に挨拶を告げる。
『お蕎麦、本当に美味しかったです。じゃあさようなら。
八乙女楽に そっくりな蕎麦屋さん』
「あ…待っ、連絡…先 とか」
まだ彼が話している途中だったが、まるで時間切れ!とばかりに、環によって扉がピシャリと閉められた。
「…ん。これ代金な。釣りは取っといてくれ。
俺も急がないとなぁ。なにせ今から “ デート ” なもんで。
んじゃまたな」
「…ゲーセン…、スポーツッチャ…羨まし過ぎるだろ!って…
金、足りねぇよ。二階堂…」