第35章 いつのまにか、その種は芽吹いてた
環が言った、一生懸命 楽を嫌いでいようとしている。という言葉。どうもこれが、頭にこびりついている。
それは、おそらく図星だから。私は自分の意思で、楽や龍之介、天を遠ざけているのだろう。
何故なら、絶対に好きになってはいけない相手だからだ。
私が彼らのプロデューサーでいる限り、メンバーに恋愛感情を持つなど御法度。こんなのは言うまでもない。
ならばもし、私がプロデューサーでなければ?彼らがアイドルでなければ?
好きになってはいけないという誓約。これがもし存在しないならば、私は……。
“ がっくんの事 好きだろ? ”
そう言われた時、何故チクリと胸が痛んだのだろう。
「え?なになに?喉が渇いたって?しょうがねえなぁタマは!おっと、グラス空じゃねえか。あんなに一気飲みするからだぞー」
「は?何ヤマさん。べつに喉は渇いてな」
「悪いなエリ、ちょっと水貰ってきてやってくれるか?ほら、これ環の水のグラス!」
『え、あぁ うん。勿論いいよ』
厨房から1番近い席にいる私に、大和はグラスを手渡した。
空になったグラスを手に持って立ち上がる。
「……はぁ。
なあ タマ。頼むから、いらん事言ってくれるなよ。流石に焦った」
「え?何が?俺、何か変なこと言った?」
「言った言った。しかも、春人じゃなくてエリの時に聞かせたんだから 余計タチが悪い」
「ヤマさん何言ってんの?春人とえりりんは同じじゃん」
「あー…いやまぁそうだけどな。
とにかく、自覚させるような事を わざわざ言わないでくれって頼んでんの」
「自覚?」
「…そ。こういう問題は、ナイーブなんだ。
本人は、種を蒔いた自覚すらなくても。
周りの人間が 水をやって肥料をやれば…
いつのまにか、その種は芽吹いてた。なんて事になりかねないだろ。そんなの、笑い話にもならないからな」
「…ヤマさんってさー、たまにすげぇ難しい事言うよな。俺には難しくて、ヤマさんが何言ってんのか全然分かんね」
「はは。まぁ、そうだよな。悪い」
「でも…そういう難しい事も理解出来るようになんねえと、えりりんと恋人同士になるの無理ってのは、子供の俺でも なんとなく分かる。
あーあーー。俺も、早く大人になりてえよ…」