第35章 いつのまにか、その種は芽吹いてた
「…さぁね。俺はエスパーじゃないから、人の心なんてものは見えないけど。でもまぁ、抱かれたいランキング1位の男が口にするようなセリフじゃねえわな」
「だからあの人は、がっくんのそっくりさんだっての」
『…そうだよね、うん。私の考え過ぎだったかも!楽が そんな一途な人じゃないって、私 知ってるはずだったのに。
なんであんな言葉に絆されそうになったんだろ!信じそうに、なっちゃったんだろ』
「だからぁ、あれは蕎麦屋さん!っていうか、えりりん さっきから」
環はそこまで言うと、空になったグラスを煽った。水が入っていないと分かると、今度は大口を開けて氷を含む。そして、豪快にバリバリと噛み砕いてから再度話し始める。
「蕎麦屋さんと、がっくんの話ばっかじゃん!俺とのデートなのに…。なんでそんな、その2人が気になんの?」
『……え?』
「おーい。タマー、ちょっと1回黙ろうか」
「しかも、なんか不自然。なんか一生懸命がっくんの事 嫌いでいようと、頑張ってる感じっていうか…。なぁ、それってなんで?
ずっと一緒に仕事してて、近くでずっと見てたら、がっくんがどんな考え方する奴か、そんなん、えりりんだったら分かんじゃねえの?
だって、えりりんは ふつーに、がっくんの事 好きだろ?」
『……私が、楽を 好き?』
好き。そう。好きだ。私は楽が普通に好き。ついこの間も彼に直接そう告げたくらいだ。
春人は、TRIGGERの八乙女楽が大好きだ。それは間違いない。
では、エリは?楽とデートをしたエリは?初めて楽と会った時のエリは?
今の 私は?
そんなのは、考えた事がなかった。