第35章 いつのまにか、その種は芽吹いてた
「えー……じゃあ俺いつ蕎麦食えんだよ…」
「エリさん!!」
『は、はい!』
楽は、また私の両肩を掴んだ。
彼の手が体に触れるのは、今日何度目だろうか。
「あんたの…そ、その、セフレが、二階堂なのか四葉なのかは、俺には分かりませんが!そういうのって、やっぱり…良くないと思います」
「またまたぁ。ほんとは羨ましいくせに」
「羨ましいか羨ましくないかで言ったら、そりゃ羨まし…
いや違うんです!そうじゃなくて!!」
『…』楽はセフレが欲しいのか。やっぱりな…
私の中で、八乙女楽という男は遊び人のイメージだ。
実際、私の先輩であるMAKAには6股をかけていた…。と、いう誤解を、私は未だに信じ込んでいるのだった。
「そういう事は、本気で愛した人とだけ するべきです」
『…まぁ、仮に貴方がそういう考えを本気でお持ちでも。私には関係ないですよね。
どうして、その思想を私に押し付けるんです?私がどこの誰と、そういう関係になろうが、お蕎麦屋さんには関係ないでしょう』
「わぉ」言うねぇ
「…ぐす」俺の蕎麦…
ほんの刹那の間、楽の瞳が悲しげに揺れた。その傷付いたような表情に、私の胸もまた チクリと痛んだ。
「確かに…こんなのは、俺のまがままで。押し付けだと思う。
でも、仕方ねえだろ。嫌なもんは嫌なんだから。
あんたが、他の男とそういう事してるって考えたら、嫌だって思っちまうんだよ」
『……?それって、どういう』
「あのー、お2人さん?盛り上がってるところ申し訳ないんだけど。そもそも俺らは、セフレじゃないから」
「……え?」