第35章 いつのまにか、その種は芽吹いてた
「うっ…、うぅ。可哀想な、蕎麦…!俺、ちょー待ってたのに。ちょー腹減ってんのに…!」
『な、泣かないでタマちゃん、ね、』
「だ、だってぇ…っ!なぁ、これもう食えないかな?もう無理かなぁ…!」
「うーん。そうだなぁ…
もしこれ食うんだったら、アイドルどころか人間も辞めないといけないな。と お兄さんは思います」
先ほどの楽と同様 床に両膝を突き、悲しみに暮れる環。そんな姿には目もくれず、楽は ようやく言葉を取り戻した。
「さ、さっきの、話って…やっぱり、その…
エリさんと、二階堂さんは…セ、セフレ!と、いうやつなんですか?」
「あはは、違う違う。そりゃあんたの誤解だ」
『そ、そう!全くもってその通りで…!』
当然、私と大和は否定の方向へ舵を切る。ここで堂々と、はいセフレです。なんて認めるメリットなど無いからである。
蕎麦を落とした蕎麦屋は、欲しい言葉を貰ったかのように表情が晴れてゆく。
しかし、それはほんの一瞬だった。彼は、環の言葉によって再び地獄へ落ちたような顔付きに戻る。
「えりりんとヤマさんはセフレなんかじゃねえって!!だってえりりんのセフレは、俺だからな!」
「——— 〜〜〜っっ!」
『ま、またややこしい方へと話が…』
「あー。終わったなぁ…」
誰だ。環に正しい知識を与えなかったのは。
それは、私と大和と壮五だ。良かれと思って隠した真実だったが、まさかこんな形で裏目に出るとは。
「蕎麦屋さん…なぁ、俺の蕎麦は?俺の蕎麦、もしかしてもうねぇの?」ぐす
「は…!やべぇ、ちょっと意識失ってた…」
再び言葉を失っていた蕎麦屋は、再び言葉を取り戻した。
「す、すみません。今すぐ作り直して来るんで、もうちょっと待ってて下さい」
「まじ!?やっりぃー!良かったー!でも俺、ちょー腹ペコだから、なるべく早く、よろしくお願いします!!」
「は、はは…、もう湯も沸いてるし、出汁も 温まってるんで、すぐに出来……
いやいや!出来ねえだろ!こんな気持ちのまま、俺っ、蕎麦作れねえから!!」
「はぁ!?なんでだよ!!俺もうとっくに蕎麦の口になってんよ!!」
「いいからちょっとそのまま蕎麦の口で待ってろ!」
「『………』」
(あーー……壊れたなぁ)