第35章 いつのまにか、その種は芽吹いてた
「それより俺はさ、エリとはセフレのつもりで居たんだけど?違ったんだな」
『え』
大和の切れ味のある眼光が、私の心臓を刺した。
『や…えっと、でもその…!
大和と、そういう事したのって 1回だけだったわけだし』
「!!
あ、ちょっと待ってエリさーん」それ以上は今は喋んない方がいいかも
大和が、私の後方を見てそう忠告したのだが。もじもじと視線を下にして話す私は、それに気付かない。
『ま、まぁでも、私が触れる事で、大和が日頃の苦労とか辛い事忘れられるって言うなら?べ、べつに、また、してあげても良いけどっ』
ガシャーーンッ!!
と、私のすぐ後ろで 食器が大破する音が炸裂した。あまりに大音量の不意打ちだった為、思わず腰が浮いた。
すぐに振り返ると、そこには…目を皿のようにして 口をぽかんと開けた蕎麦屋がいた。
足元には、見事に木っ端微塵となった陶器の器。そしてせっかくの蕎麦がぶちまけられていた。
「あーあ…だからちょっと待ってって言ったのになぁ」
「……………」
『も、もうちょっと…強引に、止めてくれれば、良かったのに』
大和を責めても仕方ない。もう、楽の耳に入ったであろう言葉は取り消せないのだ。
まるで石像にでもなってしまった楽は、いつまでたっても目の焦点が定まらない。
と そこへ、最高な?タイミングで環がトイレから戻ってくる。
「なんかさっき、ガッチャーン!!ってやべぇ音が聞こ……
あ゛ーーー!
お、俺の!俺の!!たまごの蕎麦がーー!!」
環は、楽が手元から落下させた蕎麦を見て叫んだ。無残な姿に変わってしまった月見蕎麦は、地面でほこほこと湯気を漂わせていた。