第34章 いや、はい。もう何でもいいです
「何の話ですか?」
厨房から現れた楽が、笑顔で私に問う。手にはトレイがあり、上には水が入ったグラスが3つ乗せられている。
どうやら、蕎麦の前に水を持って来てくれたらしい。
『な、何でもないんですよ!』
「??
それ、何ですか?スタンプカード?」
彼は、環がテーブルの上に置いていたカードを見つけて言う。環は嬉しそうに笑って、それを蕎麦屋に見せてやる。
「へへ、そう!俺の!
いま頑張ってポイント貯めてんの!」
「ポイント?」
「俺がちゃんと、中崎さんって呼べたら1ポイント!」
「へぇ。面白いですね。満タンになったら、どんな特典が?」
「中崎さんが、俺の言うこと何でも訊いてくれる」
「……………………
俺にも、そのスタンプカードを下さい」
『何このデジャヴ』
「いや、しゃーない。これはしゃーない。そうなるって普通」
そして、蕎麦屋は環のスタンプカードを しれっと自分のポケットにしまう。そのまま厨房へ逃亡を計った彼に、怒り狂った環が襲い掛かったのは言うまでもない…。
「あ、あぶねぇ…!俺の宝物が強奪されるとこだった!」
『大切にしまっときなさい。もうお願いだからそれ、外で出さないで。面倒くさい!』
環は、こくこくと頷くと 素直にポケットへと丁寧にそれを入れた。