第34章 いや、はい。もう何でもいいです
「じゃあ、エリさんの為にすぐ用意して来ますね。きつね蕎麦でいいですか?」
『好きです。お願いします』
「きつねか。いいね。んじゃまぁ俺は…」
「2人はザルでいいですね」
「「はぁ!?」」
「なっんでだよ!!俺、たまご入ってる奴がいい!!」
「タマの言う通りだ!なんでよりにもよってザル!?普通ここは “ あったか〜い ” のだろ!」
自販機で売られている “ あったか〜い ” と “ つめた〜い ” の缶コーヒーを連想してしまい、私は密かにほくそ笑んだ。
「蕎麦を楽しむにはザルが1番なんですけどねー。じゃあまあ温かいの用意して来ますよ」
「ったく…頼むぜ、蕎麦屋さんよー…」
「たまご入れてくれっかなぁ…」
投げやりに言った楽は一転して笑顔を浮かべ、少し待っていて下さいね。と、笑顔で私に告げた。そして、奥にある厨房へと姿を消した。
『あー疲れた…楽ってオフだとあんな感じなんだね』
「いや。オフだからって言うよりも、あんたの前だからだろ。八乙女があんなふうなのは」
『え?どういうこと?』
「…やっぱなんでもありませーん」
「なぁ。さっきから2人とも、蕎麦屋さんの事 がっくんがっくん言ってっけど、あの人はただのそっくりさんだかんな」
環は言いながら、テーブルの上にスタンプカードを取り出した。私は慣れた手つきで1つ押してやる。
『そういえばそうだったね』
「そうそう。そういう設定」
「ちげーって!ほんとなんだって!
ただのそっくりさんだっていう “ ショーコ ” だってちゃんとあっから!」
『証拠?』
「証拠ってなんだよ、タマ」
環は、ふふん。と鼻を鳴らすと、人差し指をピンと立てる。そして、体をずいっと前へ出して言った。
「がっくんの名字は、八乙女だけど…ここの店の看板は、山村 だった!
名字が違うんだから、同じ人間なわけないだろ?」
『そうだね。うん。そうだよ。もう間違いないよね。絶対にそう』
「なぁ。なんであんたは そうもタマに甘いわけ?」