第34章 いや、はい。もう何でもいいです
そもそも楽は、私の事を エリ と呼んでしまったし、また会えた。とまで口走ったのだ。
正体を明かせぬ悔しさから、相変わらず唇を強く噛んでいる楽。ここから一体どうやって挽回するのだろうか。
なんだか不憫になって来たので、私は助け舟を出す事に決めた。これも、変装生活を送る仲間のよしみだ。
『あ…あはは。どうも はじめまして』
「はじめまして?でも蕎麦屋さん さっき、エリって呼んでたじゃん。知り合いじゃねえの?」
「そ、それは…ですね…
う、運命の出会いの前では、名前も自然と分かっちゃうもんなんですよ!」
「おーい 蕎麦屋ー、汗が凄いぞー」
『大和!やめたげて!やめたげて!』
野球選手のミスプレーをヤジる要領で、大和はチャチャを入れた。
しかし、楽の地獄はまだ続く。
「蕎麦屋さんスゲえ!!初めて会った瞬間 名前分かるとかヤベェ!
あれ?でもさぁ、また会えて嬉しいって言ってたよな」
『タマちゃんももうやめてあげてよ!もう蕎麦屋さんのライフはゼロだよ!!』
「蕎麦屋!頑張れ!俺はあんたの味方だ」いけ!
『大和も煽らないの!』
さすがに万事休すか。私はドキドキしながら、上目遣いで楽の様子を見守る。こんな季節なのに、冷や汗をダラダラかきながら彼は口を開いた。
「確かに初対面だけど…会った事は、あります。
夢の中で!!」どーん
「「……は?」」
『あ……会いました!!そう!確かに会いましたよね蕎麦屋さん!!夢の中で!』
「!!
はは…そう!そうですよね エリさん!!」
私と楽は、謎に熱い握手を交わして 感動を分かち合う。
それは、私達の初対面が確定した瞬間だった。
「なんこれ。ヤマさん、これ何?」
「さぁ?」面白かったー