第34章 いや、はい。もう何でもいいです
私達は繁華街を避け、閑静な住宅街を3人で歩いていた。
『人混みを避けて、店を探すって言っても…』
「この辺にあるのって言ったら、茶店ぐらいか?」
「なー腹減ったー」
やはり、大通りに出て店探しを再開しようか?そんな話をしていた時だ。
一軒の住宅から、聞き覚えのある声が聞こえて来たのは。
「じゃあ器はいつも通り、表 出しといて下さい。毎度どうも」
『………え?』
住人と思われるおば様に見送られ、家から出て来たのは…私が思い描いていた人物その人だった。
藍色の作務衣を纏い、前掛けをした…
八乙女楽である。
混乱で舌が回らず、口をパクパクさせて楽を指差す私。その隣では、大和が “ げ ” と音を漏らしていた。
「おー、お蕎麦屋さんだ。こんにちわ」
「!
エリ!なんでこんなところに…いや、そんな事は今はいい。
また会えて、すげえ嬉しい」
「おーい。俺達の事見えてないフリすんなー」
「そうだぞ!こんにちわって言われたら、こんにちわって言えよな!」
楽は、大和と環に背を向けて、至近距離で私を見つめた。そしてオカモチを地面に置き、両手で手を握る。
「……へぇ。 “ 蕎麦屋さん ” も、エリと知り合いなのか。エリも “ 蕎麦屋さん ” の蕎麦食った事あんの?美味いよなぁ。 “ 蕎麦屋さん ” の蕎麦は」
『え……蕎麦屋、さん??』
「う……」
大和は、不自然なほどに “ 蕎麦屋 ” と連呼した。それを受け、楽は唇を噛んで俯いた。
『え…?楽、だよね』
「んーんー。この人は蕎麦屋さんでー、がっくんのそっくりさん」
『…は?』
「そういう設定になってんの」ひそ
大和は私に耳打ちしてくれたが、私の頭の中は混乱状態だった。
いやだって、それはさすがに…
『…そ、そうなんですねぇ』
(無理があるだろぅ…)