第34章 いや、はい。もう何でもいいです
「あーーーーー!!」
突然の叫び声に、私と大和の肩はビクリと跳ねる。
いま大声を上げて、こちらを指差している男こそ。私の待ち人、四葉 環だ。
「なっんでヤマさんがここにいるんだよ!」
「何でってそりゃ…デート?」
「デートに来たのは俺!!えりりん…じゃなかった!中崎さんとデートすんのは俺!!」
『タマちゃん、今はえりりんって呼んでもいいんだよ?』
「やだ。俺、ちょー頑張ってスタンプ貯めてっから」はい押して
環は、折り畳んだスタンプカードを広げて こちらに差し出した。まるで夏休みの早朝ラジオ体操に参加する子供のような姿に、私の眉尻も思わず下がる。
ちなみにだが、環にはもう既に話してある。大和は既に、私の秘密を知っていると。
すなわち、彼ら2人共が知っているのだ。私が女である事実も、Lioであった過去も。
「へぇ、タマがエリを 中崎さんって呼べたら、スタンプ押して貰える仕組み?あんた考えたな」
「へへっ、いいだろ」
『このスタンプカードができてから、タマちゃん急に優秀になったよね』
私は、ポケットからスタンプを取り出して 新しくひとつ押してやる。
そんな様子を興味深そうに眺めながら、大和は問う。
「お、もうちょいで満タンじゃねえか。で?これ貯まったら どんな良い事があるんだ?タマ」
「中崎さんが、俺の言う事何でもいっこ訊いてくれんの」
「…………………えーと…
お兄さんにも、そのスタンプカードを下さい」
『却下。その長い沈黙の間に、どんなお願い事を考えたのかなぁ大和は』
頭を下げて、両手の平を揃えて差し出す大和。そんな彼をスルーして、環のカードに更にもう1つスタンプを押した。