第34章 いや、はい。もう何でもいいです
「っていうか、あんた電話出なさ過ぎ」
『それはごめん。忙しくて』
「だからって電源切るこたないでしょ…まぁいいや。ちょっと聞きたい事があったんだよ」
大和は、私の隣に腰を下ろす。3人がけのベンチが、急に狭くなった。
「去年の末、雷雨の影響で中止になったTRIGGERのライブがあったろ?」
『あったね』
忘れもしない。あれは、IDOLiSH7がテレビで JUMP!UP!を披露したのを見た直後だ。
私は代わりの楽曲を用意するのに必死で、現場を姉鷺に任せた記憶がある。
「その時さ、TRIGGERの空気が…なんていうか、凄かったのよ」
『凄かった、とは?』
「えーっと…殺気放ってた」
『はは…』
「あの時既に、あいつらは知ってたのか?
JUMP!UP!は、あんたがTRIGGERの為に作った曲だって」
『知ってたね』
大和は、やっぱりそうか…と 顔を下に向けた。
私は事務所にいたので、TRIGGERと彼らが その時どんなやり取りをしたのかは知らない。
彼の様子を見る限り、何かはあったのだろう。
「いや、随分と無神経な事しちゃったなぁと思ってさ。ちょっと後悔してるんだわ」
『…ううん。多分、大和達は悪くない。あの3人も、突然の事で相当びっくりしたんだと思う。だからIDOLiSH7に強く当たっちゃったのかも。
いや、そもそも あの件の戦犯は私なんですよね。私がもっと気を付けていれば、あんな事は起こらなかったんです。本当にすみませ』
とん。と、唇の上に大和指先が乗った。
『…??』
「敬語。出てるって。今は春人じゃなくて、エリ。だろ?」
『……』
大和の方から、仕事を思い出させるような話題を振ったくせに。そう言ってやりたがったが、未だ唇には彼の指先が触れている。
だから口を開くのはやめて、上目遣いで大和を見るだけに留めた。