第34章 いや、はい。もう何でもいいです
私は今。スカートを身に纏い、人を待っている。
待ち人は、IDOLiSH7のメンバーだ。
実は、今日はその人物とデートをする為にここに来た。が、些か早く着いてしまったようだ。アイドルを外で長く待たせる訳にはいかないという考えの上だったが、さすがに気合を入れ過ぎた。
目の前を行く人々に目をやり、人間観察を始める。
そんなふうにして、某有名待ち合わせスポットで時間を潰していると…
深緑のコートに身を包んだ男が現れた。
「よっ」
『…こんにちは』
休日にまで、イメージカラーの緑を着込むチーム想いな男。二階堂大和だ。だがしかし。
『なんで大和がここに?』
「さぁ?なんででしょーか」
にやにや顔の彼は、私の待ち人ではない。
質問に質問で答える大和に、私が不満そうな顔を向ける。すると、マスクの下で口角を上げて言葉を続けた。
「分かんないかなぁ。
ただ お前さんに会いたかったから。理由なんか、それだけなんだけど」
『……そう』
「って!否定も肯定もなしかよ」
『え?否定していいの?』
「嘘です嫌ですごめんなさい。いやほんとやめて、お兄さんのガラスのハートが傷付いちゃうから!」
『あっはは!嘘だよ。久しぶりだね、大和。
私だって、べつに会いたくない訳じゃなかったよ』
直立したままで、ポケットに手を入れる大和は困ったように笑う。
「はは。それは、否定と取るべきか肯定と取るべきか。難しいとこだよなぁ」
『お好きな方でどうぞ』
「お。じゃあポジティブな俺らしく、後者を選ばせてもらっちゃうわ」
心の中で “ どこの誰かポジティブって? ” とか思ってしまったのは内緒だ。
目の前で笑みを浮かべる大和が楽しそうだから、それで良しとする。