第33章 とりあえず土下座から行かせていただきまーす!!
『当時の私は…その、なかなか人見知りと言いますか、人と距離を取っていたと言いますか…。とにかく、知らない人に私から話しかけたり、関わったりする事は稀だったのですが。
彼は、特別でした。きっと、楽譜に描かれた楽曲の数々に、惹かれたのでしょうね』
当時から作曲が好きで、進んで勉強もしていた私。彼の類稀な才能気付き、その虜になるのに、そう時間がかからなかった。
『私の作った曲を、見て貰う事もありました。しかし彼は、一度足りとも欠点を指摘してくれませんでした。代わりに、とにかく褒めてくれましたね。
“ ここが好きだ ” “ ここがいいね ” そればかり。
あとは、自分が曲を作る時に何を考えているか。とか、曲が作れなくて苦しい時の対処法とか。そういった事を話して聞かせてくれました』
私が放課後に その桜の木の場所に行くと、必ず彼はそこにいた。まるで、私が来るのを待ってくれているかのように。
申し合わせをしている訳でもないのに、いつだってそこに寝転んでいたのだ。
しかし。彼との別れは、突然訪れた。
『私は、気付いてしまったんですよ。彼が、ゼロの作曲を担当していた 桜春樹だと。
言わなければ良かったのに…気付けた喜びからか、私は口にしてしまいました。
“ 貴方は、あの 桜春樹? ”
彼は、ただ笑って頷きました。しかし、次の日からはもう 私の前に姿を現しませんでした』
それが、私と桜春樹の全て。
特段、誰かに話して聞かせる程のものでもない、ありふれた昔話だ。
しかしナギは、とても満足そうに微笑んでいた。