第33章 とりあえず土下座から行かせていただきまーす!!
『そうですか…。貴方は、桜さんを探しているのですね。
ですが、私ではお役に立てそうにありません。彼と出会ったのは、私が高校生の時です。
それに、私は彼について知っている事はほとんどないのですよ。数回会った程度ですから』
「春人氏が、高校生の時というと…
OH…。ワタシがハルキと出会うより、前の話ということ。そうですか…。非常に残念です」
落胆の色を全く隠す事なく、ナギは大きく肩を落とした。よほどショックだったのだろう。なんだか申し訳ない気持ちになってしまう。
『す、すみません。大した情報がなくて…』
「アナタが謝る事、何もありません。
それより、話してくれませんか?アナタがハルキと、出会った時のこと」
瞳を閉じて、思い出す。
私が桜春樹を見つけた、あの日のこと。
『…あれは、ある春の日でした。
私が河原沿いの道を歩いていると、風に乗って1枚の楽譜が目の前に落ちました』
しかし、楽譜は1枚ではなかった。ふと視線を上げれば、2枚。3枚と、白い紙がひらひらと宙を漂っていた。
思わず私は、それを集めながら進んだ。そして、なんとか全ての楽譜を掻き集めた。
『すると、目の前にいたんですよ。桜さんが。
彼は、満開の桜の木の下。芝生に寝転がっていました。頭の下で腕を組んで、気持ち良さそうに 陽の光をたくさん浴びて…。彼は眠っていました。
彼の隣には、楽譜の束があって。留め具もされていないし、重りも乗っていないものだから、それはどんどん風で飛ばされていて。
私は彼に声をかけました。大切な楽譜が、風で流されていますよ。と。
すると彼は慌てて飛び起きて、辺りに散らばった紙を必死で集めていました』
ナギは、とても嬉しそうに目を細めた。
その顔はまるで “ それはとても、ハルキらしい ” そう語っているようだった。