第33章 とりあえず土下座から行かせていただきまーす!!
私はその手を取り、彼と握手を交わしながら考える。
八乙女宗助とは随分と違う。というか正反対ではないか。同じ芸能プロダクションの社長でありながら、こうも物腰が違うものか。
こういう社長の下で働ける環境が、素直に羨ましかった。
そして、彼から手を離そうとした。その時だった。
突如として、ぎゅっと不自然に手に力が込められる。
『!?』
「ところで春人くん…。
ここからは “ 社長 ” としてではなく “ 紡の父 ” として話がしたいんだけど…。少し、いいかなぁ?」
『は、はぁ…』
「最近、うちの娘からよく君の話を聞かされていてね?それはそれは頻繁に名前が上がるんだよ…
君は素晴らしい青年だ。しかし娘をやれるかどうかというのは、また別の話でね」
「!?お父さ…社長!何の話をしてるんですか!」
「君は娘を、どう思っているんだろうか?そこの所を詳しく聞きたいなぁ?」
話している間も、ぎゅぅぅと手に力は込められたまま。耐えられなくはないが、かなり痛い。
少し離れた所で見守るナギと三月は、困惑しているようだった。
「うわぁ…社長、完全にマネージャーのパパモードに入ってんなぁ。あれ」
「HUMM…。アレは、素敵なレディを手に入れる為に、越えなければいけない父の鉄壁。というやつですね」
「だな。しかも かなり手強い部類だぜ、あれは…」
あんなにも穏やかだった瞳の奥が、殺気に揺れている。正直言って、怖い。何が彼をこうも豹変させてしまったのだろう。
「さぁ春人君?答えるんだ。君は、娘の事をどう思っているんだい?」
「……」ドキドキ(←ちょっと気になって成り行きを見守っている紡)
『ウサギ』
「何だって?」
「…」ウサギ?
『ウサギみたいだなって。思ってます』
どう答えるのが正解か予想が付かなくて。本心から答える。
目の前で固まる親子。どうやら、正解を外したらしい。
しかし次の瞬間。社長の顔から怒気が消えた。そして、ポン。と 両肩に手を置かれる。
「これからも、紡と仲良くしてあげてね」
『…はぁ』
「…」ウサギ?
長く圧迫された手を、軽くさすりながら考える。一体今のは何だったのだろう。
私に分かるのは、八乙女宗助が意外と優しい部類の社長だったという事。
今日、私は小鳥遊事務所の闇を見た。
