第33章 とりあえず土下座から行かせていただきまーす!!
「おっふ!?」
「ひっ、」
股間にぶら下がったそれを、手のひらで握って ぎゅっぎゅっと力を込める。
日向は情け無い声を上げつつ、腰を引く。姉鷺は小さく悲鳴をあげていた。
『なんだ、ちゃんと付いてますね』
「な、な…なに、す」
『失礼。あまりにも女々しいので、モノが付いてないのかと思いまして』
私が彼の息子を解放すると、日向は長い息を吐いた。そして冷や汗を手の甲で拭う。
『悔しくないんですか?』
「…そんなわけねえだろ」
『曲作り、好きでしょう』
「嫌いなら、ここまで苦しんでない」
『またTRIGGERに、自分の曲を歌って欲しいのでは?』
「……歌って、欲しいに、決まってる!!」
目に悔し涙をいっぱい浮かべて、彼は叫んだ。
私は、知っている。彼が、本当は音楽を愛している事を。そんな尊い気持ちを、嫉妬心と承認欲求が 歪めてしまっただけ。
『私、貴方のファンでした』
「…は?」
『貴方がTRIGGERを想い、TRIGGERの為に作った曲。全て聴きました。全て記憶しています。
そんな、いちファンからのお願いです。どうか、歪んでしまう前の貴方に戻って下さい。そして、またTRIGGERの為に曲を作って下さい。
私が作った楽曲を超える物を、貴方の力で作って下さい』
私の言葉を一身に受けた日向は、へなへなと その場に力無く崩れ落ちてしまった。
彼の瞳から溢れる涙が、地面を点々と汚す。
「こんな、俺を、許すのか?
俺は…あんたの作った曲を、ライバルであるアイドルに横流ししたんだぞ」
『…まぁ、責任の一端は私にもあります』
「信じられねぇよ…。お人好し通り越して、バカだろ、あんた」
『間違いは誰にでもありますよ』
「…っあんたが、そう言ってくれたところで…、社長は俺を許さない。あの人は、厳しい人だから、大きな過ちを犯した人間は、もう使わない」
私が姉鷺に視線をやると、彼は残念そうに頷いた。姉鷺の見立てでも、日向のクビは確実なのだろう。
私はしゃがんで、日向の肩に手を乗せた。
『では、一緒に頼みに行きましょうか。
大丈夫。あの人は意外と、優しい人ですよ』