第33章 とりあえず土下座から行かせていただきまーす!!
『いつか、こんな事件が起きてしまかもしれない。そう予想はしていたんですよ。
私が多くの人から仕事を奪うのは、初めから分かっていましたからね。他人から恨まれる覚悟も、TRIGGERのプロデューサーになった時に決めておいたはずなのに…
もっともっと、私は自衛しておくべきでした』
私が仕事部屋の鍵をかけておけば。パソコンをロックしておけば。今回の事は、未然に防げた。だからやはり、私の過失なのだ。
「おい、違うだろ。それは絶対に間違ってるぜ。
もし、そいつらが俺達と仕事がしたいって思ってくれてるんなら、春人より上へ行けば良い話だろ。
あんたの作る曲より、もっと凄い曲作ればいい。
あんたの考える振りより、もっと格好良いダンスを生み出せばいい。
自分より優れた人間の出現を怨んで、今回みたいな事件をもし起こしたんだとしたら…
それは、そいつが弱いからだ。お前のせいじゃねえぞ。春人」
『……楽』
目が、チカチカした。
楽が、眩しくて。直視する事さえ はばかられる。
私は彼からの言葉を胸の中で、何度も繰り返して 噛み締めた。それから、ようやく口を開く。
『そういう真っ直ぐな考え方をする、貴方が好きですよ』
「そうか?普通だろ。まぁでも、俺もお前が好きだぜ」
「はぁ…。2人とも よく平気で、面と向かって好きとか言えるよね」
「そうかな?俺も皆んなが大好きだから、いくらでも言えるけど」
「え…?ボクが変なの?」
結局、私は彼らに最後まで口を破る事はしなかった。
楽はああ言ってくれたが、この世に起こる全て事が 正論で片付く訳ではないのだ。
心の弱い人間は、必ずいる。私は そんな人間の気持ちを、少しは理解出来る。
だから、追い詰められて間違いを起こしてしまった人間の名を、TRIGGERに告げ口するような真似は出来なかったのだ。