第32章 TRIGGERだから
スタッフの “ はいOKでーす!” の声と共に、私はインタビュアーの女性と向き合う。
「お忙しい中、お話をどうもありがとうございました!」
『いえ、こちらこそ。こんなに明るくて滑舌の良い方に当たるなんて、私はラッキーでした。では』
「あ、あの!私、その…個人的に、TRIGGERの新曲とても楽しみにしています!頑張って下さい!」
『!!
ありがとうございます』
私は自然と溢れた笑顔を彼女に向ける。
送った言葉は、本心である。安定感のある喋りで、私も話しやすかった。
この分なら、明日の放送も安心して見られそうだ。
それから私は、急ぎ足でTRIGGERが控えている部屋へと向かうのだった。
「お疲れ様。春人くん」
「上手くいったか?インタビューは」
『滞りなく』
「でも珍しいよね。プロデューサーがカメラの前に立つなんて」
1ヶ月前、中止となった あのライブ。パーカーを無料配布するという処置を取った私だったが、それが予想以上の反響を呼んだ。
周りは、神対応と盛り上がったのだ。そして、世間はそんな措置を取った私を求めた。こぞって顔や思想を知りたがり、メディアがインタビューを申し込んで来た。というのが一連の流れ。
『確かに、カメラの前に立つのは気が引けましたが…。
それでも、せっかく集まった注目です。利用する手は無いと思いまして。
特に今回は、私のせいで貴方達や事務所には迷惑をかけましたから。協力が出来るなら、何だってしたかったんです。
それに…今度の曲は』
「特別。でしょ」
「それ以上は、聞かなくても分かる。春人くん」
「だから安心して見てろ。
今までで一番の楽曲だって、ファンにもお前にも、思わせてみせるから」
私は、ただ頷いた。
言葉はもう、何もいらないと思ったから。
そして、ステージへと向かう彼らの背中を見送った。