第32章 TRIGGERだから

『楽譜のデータも、編集済みの音源も。全てUSBにバックアップがありますので。すぐに用意出来ますよ』


その言葉通り、私は自室からそれらを持って来る。そして、まだ楽譜しか見ていないという龍之介にも聞かせるところから始めたのだった。


「2週間後の新曲発表は、これでいく。
龍も、依存はねえな」

「あるわけないよ…。春人くんは、やっぱり凄いな。俺達の気持ちを、こんなに素敵な曲にしてくれてありがとう」

「ボクは、この曲を早く歌いたくて仕方ない」

『いや、あの…皆さんの気持ちは嬉しいのですが。実は私、TRIGGERの作曲家を降ろされまして。それどころか、クビ宣言されたと言っても過言ではないんです。
そこまで怒髪天の社長が、曲の使用を イエスと言うかどうか…』


もちろん、このまま泣き寝入りをするつもりはない。どれだけ社長に頭を下げる事になってもいい。だから、この曲だけは彼らに歌って欲しい。
2週間後に披露する新曲としてではなくとも、せめて いつかは…TRIGGERの楽曲として、使って欲しい。


「親父の許可なら、もう出てる」

『——え？
嘘ですよね、だって社長、あんなに怒って』

「凄いね楽。一体どんな手を使って説得したんだ？」

「靴でも舐めた？」

『な、なんてことを…。アイドルはそんな事をしてはいけません！靴なら私がいくらでも舐めますから！』

「舐めてねえよ！
あと春人。舐めるなよ絶対！」


私にそう釘を刺した後、楽はさきほど社長室で何があったかを話し始めた。

完成した曲を耳にするまでもなく、これで行くと決めてくれたこと。
私を信じ、2週間のスケジュールを空けていてくれたこと。


『本当…ですか、その話は』

「ああ」

『ちょ…っと、ヤバイですねそれは。
社長に惚れそう』

「やめろ、まじで、頼むから」