第32章 TRIGGERだから
「——く、……くん!」
ふわふわと、心地の良い睡魔の間から聞こえてくるのは。
「———起きて、ねぇ」
私の天使様の声ではないか?
いつだって優しくて、いつだって私を案じてくれている、本物の天使…。
「春人くん!ごめんね、起きて?」
『ぅ……ん、まだねる』
目を瞑ったまま両腕をもたげる。そして近くにあった温かな体を きゅっと抱き締めた。
やはり温かくて…布団より気持ち良い。
「っっ、、!春人く、っ」
「おい龍!男に抱きつかれたぐらいで頬染めんな!どんなけピュアだお前!」
声を荒げながら、私から龍之介をベリっと引き剥がしたのは楽だ。
熱源を奪われて、少しだけ人肌が恋しくなる。そんな私の前に、天の綺麗な綺麗な顔が迫る。
「起きて。早く。急いで。今すぐに」
『……にせものの、てんし?』
「いつまでも寝惚けてたら締め上げるよ?」
寝ぼけ眼の私に、悪魔のように天は言い放った。
『悪魔の天と、天使の龍と、神様の楽。
死んでしまった私を、地獄行きにするか天国行きにするか。その3人がジャッチするという夢を見ていました』
「その夢のオチはすげえ気になるけどな。今は後回しだ」
「ボクが悪魔なのが気に入らない」
「春人くんなら絶対に天国行きだよね」
「後回しだって言ってんだろうが!」聞け!
次第に、寝落ちする前の記憶が蘇ってくる。そうだ。私は寝てる場合などではなかった。
一体どれくらい寝ていたのだろう。感覚から言って、そこまで長時間ではないはずだ。窓の外に目をやるが、まだ明るい。
「もう少し寝かせてあげたかったんだけど、ごめんね春人くん」
「楽が社長室に音源さえ置いてこなければ、キミももう少し寝ていられたのにね」
「そうなんだ!聞いてくれ春人くん!俺だけまだ新曲聴けてないんだよ。まるで仲間外れにでもされてる気分…」
「だから悪かったって。でも置いて来ちまったもんは仕方ねえだろ」
なるほど。
音源は一応、社長に提出されたらしい。