第32章 TRIGGERだから
親父の態度を見れば分かる。姉鷺の言葉が、まんざら間違ってはいないと。
さらに驚くべきなのは、この2人はまだ 春人の作った曲を聴いてすらいないのだ。それなのに 迷う事なくGOを出し、貴重な2週間を差し出した。
この捻くれ者を、どうやって捩じ伏せてやろうか。それだけを考えていただけに、こうも上手く事が運んだ事に戸惑いが隠せない。
「まぁでも…仮に2週間という時間を使ったとしても、今年のオン大の最優秀賞は厳しいでしょうね。
アタシは、新曲の蔵出しは来年まで待つのも手だと思います。じっくりと育て上げれば、来年のオン大では最優秀賞を確実に狙えるのではないでしょうか」
「………」
姉鷺の提案に、親父は耳を傾けていた。
そんな中、俺はここに来たもう一つの理由を思い出した。
「親父。春人をクビにするらしいな」
「は?ちょ、楽?社長はそこまでは」
「言った。としたら…なんだ?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる男に、俺は人差し指を突き付ける。
「今年のオン大。最優秀賞はTRIGGERが獲る。春人が作った、この曲でな。
だからその時は、あいつのクビは取り消せ」
「ほう。交換条件か、面白い。飲んでやる」
「その言葉、忘れんなよ」
俺は音源を親父の目の前に置くと、足早に出口に向かった。そして、扉に手を掛けて呟く。
「…スケジュールの件は…まぁ、一応、礼を言っとくぜ」
パタン
「……」
(あれで御礼のつもりなのかしら。不器用な男ねぇ…)
「…アイツ。あんなふうに 人に指を突き立てやがって。一体どんな育て方をされたんだ。親の顔が見てみたいわ!」
「社長…それは、突っ込み待ちですか?」
「…」ギロ
「す、すみません。
それにしても、社長はあの子をクビにするなんて一言も言ってませんよね。まぁ大方、彼女が勘違いして メンバーに伝えたんでしょうけど…
本当の事、言ってあげれば良かったんじゃないですか?
“ スランプが治るまで、事務要員として在籍させておくつもりだった ” って」
「そ、そんな事わざわざ言わなくて良い!いいか姉鷺。絶対に言うなよ、必要ないからな!」
「……了解」
(こっちもこっちで…不器用な男ねぇ)
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