第32章 TRIGGERだから
【side 八乙女楽】
『で…出来ま、した』
様子を見に来た俺達に楽譜を手渡し、そのまま ぱたりと力尽きた春人。床に突っ伏して、すやすやと寝息を立て始めた。
楽譜と共に手渡されたのは、春人の肉声で録られた音源。
「じゃあ俺は、春人くんを仮眠室まで運んでくるね」
「おう」
「もはや定例だよね。気絶するみたいに落ちるプロデューサーも。それを運ぶ龍も」
天はそう言って、両手が塞がった龍之介の為に扉を開けてやる。
俺はというと、そんな背中を見送るのもそこそこに。CDをデッキへと挿入した。
龍之介には悪いと思ったが、さきに音源を確認させてもらう。
その中には、間違い無く 俺達の想いが詰まっていた。
俺達が春人に託した想いが。春人の手によって、形作られていた。音の結晶となって、いま俺の手の中にある。
「これを…1日で…」
きっと天も、同じ思いでいる事だろう。口元を手で覆い、大きな瞳を揺らしていた。
俺はデッキからCDを抜き取ると、ある場所へ向かう為立ち上がる。
「楽。どこ行くの」
「親父のところだ」
奴は、もう春人の曲を使う事は金輪際ない。そう宣言していた。
当然だが、俺はそんな言葉に一切納得などしていない。
「天」
「なに」
「これ、歌うぞ」
「……」
背中でそれだけ言うと、俺は扉に手を掛けた。
「絶対に社長を説得してきて。
これを世に出したいと思わない人間なんて、音楽に携わるべきじゃない。ボクは、そう思うよ」
俺達のセンターである天の、大袈裟でありながら しかし力強い言葉。嬉しさから口角が上がるのを感じながら、部屋を後にした。