第32章 TRIGGERだから
結論から言ってしまえば。今この瞬間から丸一日の内に、曲は完成してしまう。
あれだけ苦しんだのが嘘のように。まるで初めから、その楽曲が生まれる事が運命として定められていたかのように。
しかし。作曲中の約24時間の記憶が、私の中からはすっぽりと抜け落ちている。
まさに、気が付いたら楽曲が手の中にあった。きっと 過程なんかを飛び越えるくらいに 集中していたからだろう。
「ご飯、一応 色々と買って来たんだけど…
春人くんは、どんな様子?」
「どうもこうも。なぁ天…」
「うん。見たまんまだよ。瞬きもしないでピアノ弾いてる」
『 』
「あはは。やっぱり…。予想はしてたけど」
「極端だよな。ま、スイッチ入ったみたいだから もう心配はいらないんだろうが。
それより、確かしばらく飯も食ってないんだよな。腹減ってねぇのかよ…」
ぐぅーーぅ
「減ってるって」
「ピアノの音に勝つ音量で鳴る腹!」
「あはは!お腹が空くのは元気な証拠!ほら、春人くん?一旦休憩にして、ご飯食べようか?」
『 』
「無駄だろ。この状態の春人に、俺達の声は届かねえよ」
「そんな…、でもこの勢いで続けたら、また倒れちゃわないか心配だよ。
ほら、エネルギーゼリーなら片手で食べられるから!春人くーん!」
「口に突っ込んだら食べるんじゃない?」貸して
ちゅぅー
「ほら」吸った
「ほら。じゃねえよ。天が春人の口に食いもん突っ込んでる画がシュール過ぎる」
「でも良かった!これでなんとか、栄養は取れるね」
「お。蕎麦がもあるじゃねえか」
「うん!それは楽用に」
「今なら春人、無意識に近いし 鼻に麺持ってったら、鼻から食うんじゃねえか?」
「待って。ゼリーが全部なくなってから」
「ちょっと2人とも!なんでヤル気!?やめてあげて!
お、俺が春人くんを守らないと…!」
一心不乱にピアノと向き合っている私。
龍之介がナイトとなって護衛してくれていたなど、知る由もなかったのであった。