第32章 TRIGGERだから
私は、いい加減に むくりと上半身を起こす。
『いつまでも寝転がってる訳にはいきませんね。さすがに仕事をしないと。無理矢理にでも。
なんだか、少しだけ…書けるような気もしないでもないです』
「そう」
『ええ。貴方達のおかげです。貴方達から少しずつ元気を分けて貰ったみたいですね。
でもまさか、自分がこんな “ 元気玉 ” のような卑怯な奥義に頼るなんて思ってもみませんでした』
「元気玉を卑怯だと思ってる時点で、お前やっぱり疲れてるぞ多分」
立ち上がろうとする私に、龍之介が手を差し出した。私は、素直にその手を取る。
しかし腰を上げ、いざ彼の瞳を見ると…
龍之介は、悲しそうな瞳で私を見つめていた。私は思わず、彼の名を呼ぶ。
『……龍?』
「俺は…まだ、一番聞きたかった言葉を 春人くんの口から聞けてない」
今度は、隣に座っていた楽が立ち上がり。こちらへと歩み寄る。
「同感だな。おい春人。お前、まだ一人で何とかしようと考えてるのか」
『楽…しかし…
プロデューサーであり作曲家である人間が、アイドルを頼るなんて そんな事あってはならないでしょう』
天が、楽と龍之介の間に歩み出る。
「ただのアイドルなら…荷が重いような事でも。ボク達なら背負えるよ。
キミが抱えきれないなら、ボク達が一緒に持ってあげる。言っておくけど、それくらい訳ないから。
だってボク達は、ただのアイドルじゃない。ボク達は…」
「「「TRIGGERだから」」」
チカチカと、眩いくらいの光が。彼らを包んだ気がした。
3人は、私に向かって手を差し出して こちらを強い瞳で見据えている。
もう本当に、眩しくて直視出来ないくらいだ。
改めて思う。
私は、こんなにも格好良い 最強のアイドルの側で 共に戦っていたのかと。
頼っても、良いのだろうか。
いや。今こそ 口にするべきだろう。
私は、彼らに手を伸ばす。そして、声を絞り出す。
『…助けて』
囁くように、口から溢れた言葉だったが。
それでもしっかりと、3人に吸い込まれた。
「やっと、聞けた」
龍之介は、待ち望んでいた言葉に瞳を閉じた。