第32章 TRIGGERだから
『…何ひとつ問題が解決した訳ではないのに、気持ちを吐き出すだけで 随分と楽になるものなんですね』
私は、天井を見つめたまま呟く。
この部屋の天井をこんなふうに、ゆっくりと眺めた事なんてなかった。見る景色が変わるだけで、ここがまるで知らない部屋みたいだ。
ぼんやりと上を見る私に、龍之介は相変わらず心配そうな顔をこちらへ向けた。
わざわざ椅子から腰を上げ、私の元へ近寄る。
「春人くんは、疲れてるんだ。もう少し、横になってたらいいよ。
あ!俺、膝枕しようか?」
「あーぁ。プロデューサーがいたいけな龍をその気にさせた」
「甲斐甲斐しいな。龍」
『えっと、首が90度に折れ曲がるのが目に見えてるので遠慮しておきます』
龍之介の高過ぎるであろう筋肉枕も、それはそれで捨てがたいかとは思ったが。正直 今はそれどころではない。
相変わらず寝転がる私を、椅子に着く彼らは見下ろしている。
「って言うか、弱ってるお前は可愛いな 春人。
そういえば “ 捨てないで ” とか言ってなかったか?」
「はは。でも心外だよね。まさか俺達がそんな事言うと思われてたなんて!」
『え?言いそうじゃないです?特に天』
「うわ。凄い貰い事故なんだけど」
『楽も尻軽な感じで、簡単に他の作曲家に乗り換えそうだし』
「コラ。誰が尻軽だ」
『龍は……』
「ん?」キラキラ
『今日も本物の天使』
「ねえ。わざわざ聞かないけど、偽物の天使がボクだなんて言わないよね。ねぇ?」
TRIGGERと話していると、ふと気付いた。私は彼らと、2週間まともに口をきいていなかったのだ。
改めて思う。私がいかに、普段3人に救われているのか。
こんな何気ない会話を交わすだけで、ささくれた心が 整うのを感じた。