第31章 こっちを見ろ!!
抱き締められたのだと気付いてからも、私はポツポツと言葉を零す。
『でも、どうしてか、いつもみたいに…上手く出来ないんです。作らなくちゃって、思えば思うほど。歌が遠のいていく。
書きたいのに、奏でたいのに。ぜんぜん、出来ない…』
「馬鹿だな、本当に…。そんな事くらいで、俺達が春人くんから離れていくわけがないだろ?
大丈夫。大丈夫だよ。TRIGGERの一番近くにいるのは君だ。
この1年間が、ずっとそうだったみたいに。それは、これからもずっとだ」
カラカラだった砂漠に、雨が染み込んでいくみたいに
私の心に龍之介の言葉が、ゆっくりと溶けていく。
このまま、彼の胸に全部を預けて 泣いてしまいたい。
でも、そこまで甘えたくはない。やるべき事が 何も出来ていないのに、優しい人に寄りかかるだけ寄りかかるなんて。
そんな狡い女の部分を、彼らに見せたくない。
私は、込み上げてくる嗚咽を飲み下し、泣かないよう腹に力を入れる。
『………っぅ、……く、』
「うん、泣いていいんだよ」
『……ちが…、りゅ、離して』
「??」
「ねぇ。プロデューサーの様子おかしくない?」
「おい、春人?」
『……気持ち、悪…は、吐く』
「「「!!!」」」
慌てふためく龍之介と楽に抱えられ、廊下をロケットスピードで移動する私。
そして、男子トイレの個室に着くなり 便器に顔を近付けた。
『っ、ぅ、……え、』
「だ、大丈夫!?春人くん!」
「な、何がどうなってるんだよ。一体…」
龍之介は、かしずく私の背中をさすってくれている。個室に男3人は狭過ぎると判断したのか、楽は外で待機していた。
気持ち悪くて、嘔吐してしまいたいのは山々なのだが。いかんせん出すものがない。
そういえば、私はどのくらい飲食を忘れていたのだろうか…