第31章 こっちを見ろ!!
「おい、聞こえてんだろ。返事ぐらいしろよな」
呆れた様子の楽は言った。
「春人くん、顔色が悪いけど大丈夫?」
いつどんな状況でも、優しい龍之介。
「進捗はどう?」
そして いつどんな状況でも、直球な天。
私は、誰の目も見れなかった。
3人の足元に視線を落として、決して視線がかち合わないようにした。
『迷惑をかけて、すみません』
「謝って欲しいわけじゃねえぞ」
『私の事なら、気にしないで下さい』
「いや、気になるよ…」
『進捗は…芳しくありません』
「だろうね」
今すぐに彼らの前から逃げ出してしまいたい。決定的な言葉を、聞いてしまう前に。
私は手早く手荷物をまとめると、演奏席から立ち上がった。そして3人の横をすりぬけて、退室を試みる。
『集中したいので、1人にさせて下さい。進展がありましたら、私から声をかけるので』
そんな私を、今度こそ龍之介は捕まえた。
「待って。春人くん」
『離して下さい。大丈夫、大丈夫ですから。私はまだ。もう少しで、出来るんです。曲は、出来るんです、絶対に』
楽と天は、困ったように不安そうな瞳で私を見つめている。そんな顔が、見たくなくて逃げようとしていたのに。
どこを見たら良いのか分からなくて、視線をあちらこちらに運ぶ。
視界に入ってしまった龍之介の瞳は、確かな怒気を孕んでいた。そんな顔を見たくなくて、必死で足掻いていたのに。どうしてこうなってしまったのだろう。
その怒った顔で、貴方は言うのだろうか。
“ もう、お前は必要なくなった ”