第31章 こっちを見ろ!!
地面に足が付いているのか付いていないのか、よく分からないけれど。とにかく私は社長室のドアを開けて廊下に出る。
そこには、TRIGGERの3人が勢揃いしていた。
怒っているのか、困っているのか、それとも心配しているのか。どんな顔をしているのだろうか。分からない。
私は、彼らの表情を見る事が出来なかったから。
「春人く」
『すみません。私は、曲を、作らなくては ならないので』
龍之介が私の腕を取ろうと手を伸ばす。私はその手をするりと躱して、彼らの隣を抜けた。
ピアノが置いてある作曲室を目指して、廊下を行く。その間、幾人かのスタッフに話しかけられたような気がする。しかし 私はまともに取り合う事も出来ず、ただ五線譜を思い浮かべる。
どうして。こんなにも曲作りの事を考えているのに。ただの一音も降りて来ない。
音符の1つも並んでいない五線譜なんて…知らない。
ピアノの鍵盤が、白と黒が、どろりと溶けたみたいに歪んだ。指で叩いてみても、次に繋がる音なんて降って来ない。
こんな事は、初めてだった。目と喉が、カッと熱くなる。
泣いても意味が無い。曲が出来なければ、何の意味もないのだ。
『なん、で…!どうして、書けない、出来ない、曲が』
今まで、深く考えなくても音が降りてきた。歌詞が浮かんで来た。なのに今回に限って、どうして上手くいかない。
思い出せない。今まで私は、どうやって曲を作ってきたのだった?
どうやって、自然体になっていたのだった?どうやって、音を捕まえていたのだった?
『早く、作らないと…!3人も、私なんかいらないって、言う、
曲が作れないと、TRIGGERの側にいる価値が、なくなってしまう。
私は、捨てられる、嫌だ…嫌だ…、怖い。怖い…』
頭を抱えて、楽譜をぐしゃりと握り潰した。