第31章 こっちを見ろ!!
不幸な出来事は、重なる時は重なる。例えば、今のように。
俺達3人は、何か言葉を口にする事さえ出来なかった。
代わりに、ナギが口を開いた。
「残念ですね…。しかし、こればかりは神様のご機嫌。今日の神様の気分はSO BATでした。だから仕方のない事ですよ」
「でも、ほんとに悔しいよな…。TRIGGERのファン皆んな、ずっと待ってたんだぜ。傘さしながら、この凍えるぐらい寒い雨の中」
「兄さん。そうは言っても…六弥さんの言う通り、何事にも仕方の無い事はありま」
一織の言葉を遮り、電子音が鳴り響く。すぐに姉鷺が懐から携帯を取り出した。
彼がそれのボタンを押せば、電子音はピタリと止まる。
「はい、もしもし。
……ええ。貴女の言う通り、中止になったわ。雨風に加えて、雷もだから。
え。な、なんですって!?」
電話の相手は、おそらく春人だろう。会話の成り行きを聞いている全員が、何故かそれを理解した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あのパーカー1着いくらすると思ってるの!3800円よ!?3800円!
持って来てる分を全部って言ったら総額で
って…
き、切りやがったわ、あの子…」
姉鷺は、一方的に電話を切られてイライラしている。やがて携帯電話をしまって、ばっ!と俺達に向き直った。
「プロデューサー様からの御指示よ。
ライブ中止に加え、この悪天候。ファンはさぞ落胆している事でしょう。そこで、せめて温かくして帰って欲しいという気持ちを込めて…込めて…
物販で売る予定だった、TRIGGERパーカー500枚!先着で無料配布しろ!ですってよ!」
悔しげな姉鷺に対して、俺達3人は自然と笑顔になっていた。
なんとも彼らしい、彼の提案を聞いて。