第31章 こっちを見ろ!!
分かっている。
きっと、彼らは何も悪くないという事は。
しかし、だからと言って簡単に割り切れる問題でもない。春人が受けたショックを思うと、笑って話が出来る気がしなかった。
それに、春人が一生懸命 俺達の為に作ってくれた、俺達が歌うはずだった曲を、彼らが楽しそうに披露していた姿を思い出すと…
駄目だとは分かっていても、事の真相を探るような質問をしてしまいそうになった。
楽も同じ気持ちなのだろう。いつもよりもIDOLiSH7を見る目付きが鋭い。
そんな普段通りでない俺達に、彼らはすぐに違和感を抱いたようだ。
大和は楽の前に出て、言う。
「おい八乙女。お前さん、目付きがいつもより5割くらい増して凶悪よ?どうかしたのか?あ、もしかしてライブ前で緊張してるとか」
「ライブ前に緊張するかよ。ふざけた事言うな」
「??」
図らずともギラつく楽に、首を傾げる大和。その少し後ろでは、和泉兄弟がヒソヒソ話をしている。
「な、なぁ一織、今日のTRIGGER…なんか変じゃねぇか?」
「ええ。私にもそう見えます」
「うーん…ライブが出来るか出来ないかっていう微妙なとこだから、ピリついてんのかな」
「そうでしょうか。それくらいで、平静を失うような人達だとは考えにくいですが…」
部屋が変な空気で満ちる。堪らず俺は慌てて声を上げる。
笑顔で。なるべく、いつも通りの俺で。
「あ、あはは!ごめんな!ちょっと今は、その…立て込んでて!せっかく来てくれたのに、本当に、ごめん」
「…リク、TRIGGERは非常に忙しいみたいです。ワタシ達は早々に退散した方が良いのでは?」
「そ、そうだね!すみません、お邪魔しちゃって」
ナギに促され、退室に向け動き出すメンバー。本当に、彼らには申し訳ないが ほっとした。
感情的になりやすい楽も、なんとか我慢してくれたし。どうにか春人に敷かれた箝口令も守れそうだ。
しかし…
予想外の人物が、去ろうとするIDOLiSH7を引き留める。
「陸」
それは、今までただの一言も発していなかった 天であった。