第31章 こっちを見ろ!!
「今、そんな話を憶測でしても意味がない。
八乙女プロの中には、外部の人間だっていくらでもいる。仮にデータを持ち出した人間が存在して、さらにそれを 身内と決めて掛かるのは時期尚早だと思うけど。
それにプロデューサーも言ってたでしょ。事実が確定するまでは、滅多な事を口にするなって」
彼の言葉を聞いて、姉鷺も楽もピタリと口を噤んだ。たしかに、その通りだと思ったからだろう。
気まずい空気を引き裂くように、雷の音が室内にまで轟いた。
「なんか、雨…酷くなってないか」
「そうねぇ。このまま雨風が落ち着かないようなら、ライブの決行自体が危ないかも…」
踏んだり蹴ったりとは、まさにこの事だ。しかし、不運はこれだけに留まらなかった。
ノックの音と共に、俺達が今 最も会いたくない人達が現れたのだ。
「こんにちは!」
そう元気に言ったのは、IDOLiSH7のセンター 陸。
「いやー、外 凄い雨だわ。これライブ大丈夫なのか」
次は大和だ。髪には大粒の雫が付いている。
「本番前のお忙しい時間に、申し訳ありません」
「すぐ出て行くんで、ちょっとだけ挨拶させて欲しいなーって思って!」
そう言ったのは、和泉兄弟。
「おや?今日は春人氏はいないのですか?珍しい事もありますね」
部屋を見渡し、ナギは言った。
壮五と環は仕事だろうか。姿が見えなかった。なんにせよ、姿を現したのはIDOLiSH7のメンバー5人。
いつもなら、激励に来てくれた後輩を 温かく歓迎するところなのだが…。今日ばかりは、どうしても気が進まない。
どうしたものか、と視線を泳がせる俺だったが。姉鷺が1番最初に口を開いた。
「ここにいるのが 春人じゃなくて、アタシで悪かったわね!ふん!
とにかく、アタシは現場の様子見てくるわ」
今は、どうしたってここに居たくないもの。
そう小さく呟く背中を、俺達は全員で見送った。