第31章 こっちを見ろ!!
『ですから、事実のみを述べる。と言ったでしょう。
私がTRIGGERの為に用意した楽曲と、IDOLiSH7の新曲が同じものだった。
これ以外の事象については、今の段階では何も語れません』
「いや、お前…何が起こってるのか分かってんのか?落ち着き過ぎだろ!」
そう。
彼が1番驚いたはずなのに、1番落ち着いているのだ。普段は感情的にならない天でさえ、その瞳には動揺の色が浮かんでいたというのに。
『分かっていますよ。ですが そんな事を言っても、仕方がないでしょう。今こうして現実に起こってしまったんですから』
「オン大、今年のノミネートは諦める?」
『まさか』
「ふ…その言葉が聞けて、少し安心した」
『書き直します』
春人は、天の手から楽譜を取り デスク横にあるシュレッダーの機械の中に放り込んだ。
無情にも彼の手掛けた楽曲は、ゆっくりと雪のように粉々になっていった。
「書き直すって…春人くん、大丈夫なのか?時間はそんなに残されていないだろう?」
『今までも、短時間で書けました。今回だけ書けない。そんな事は起こり得ない はずです』
「おい。どれくらいで用意出来る」
『3日。何とかします』
彼は短くそう言うと、デスクにあるパソコンと向かい合った。早速 新曲作りに取り掛かったのだろう。
もう集中モードに入ったのか、俺達の事など見えなくなってしまったみたいだ。
おそらく、部屋を出た方が良いのだろう。俺達は顔を見合わせて、頷いた。
なるべく静かに部屋を出ようとする俺達に向かって、彼は最後に口を開いた。
『すみません。今日の野外コンサートの付き人は、私から姉鷺さんに変更です』
「ま、そうだろうね」
「春人くんは、新曲を作らないといけないもんな…」
『それと、今回の楽曲被りの件。社長には私から報告するので 皆さんからの説明は不要です。
最後に…』
「おい まだあるのかよ」
『くれぐれも、IDOLiSH7や小鳥遊プロの人達に会っても 今回の件には触れないように。こちらからは絶対にアクションを起こさないで下さい。
事の真相が確定するまでは、不用意な言葉を口にするのは禁止します』