第29章 《閑話》とあるアイドルプロデューサーの休日
———1ヶ月後
「1人?良かったら今から、一緒に踊らない?」
「いえ…すみません。遠慮しておきます」
「えーなんで、ダンス苦手とか?」
「そういうわけではなく、私…
人を探しているんです」
私は、今日もここ WALP で彼を探していた。
選んだ服は、赤いワンピース。露出度は高くないが、彼のアドバイス通りに 体のラインが出やすい物を選んだ。
口紅は 彼に貰ったベージュピンクの物を引き、ファンデーションは薄めに乗せた程度。苦手だった化粧も勉強した。
そして、ヒールに慣れる練習もしたので、ある程度の高さの物は履きこなせるようになった。すると、自ずと姿勢が良くなった。それだけで見えていた景色が少しだけ変わったように感じるから不思議だ。
眼鏡からコンタクトレンズに変えたし、喋り方も意識してハキハキとさせた。
私が変わった点を上げれば、キリがないくらいだ。
しかし…
「烏龍王子、最近見ないねー」
「ここだけじゃなくて、どのクラブにも現れなくなったらしいよ」
「クラブ、飽きちゃったのかなぁ」
「あーあ!1つクラブ通いの楽しみが減っちゃったよ」
そう。彼は、忽然と姿を消したのだ。
私に魔法をかけた、あの夜から。彼を見た者は、誰一人いないという。
しかし私は、諦めきれずにここにいる。
「………」
(自分がこんなに諦めが悪いなんて、知らなかったなぁ)
ただ、伝えたい事がある。
もう絶対に
“ 好きになって良いですか ”
そんな言葉は、口にしないから。
ただ、聞いて欲しい。
「………」
(私、たくさん友達が出来ました。それも、本当の意味での友達です。
それに、たまにだけどナンパもされるようになったんですよ。今でも、ちょっと信じられないです。
私、貴方が言うように、本当に変われたんです。これも全部、貴方のおかげ。
私を変えてくれて、ありがとう。どうしても、伝えたい…)
貴方は今頃、どこで、何をしているのでしょうか。