第29章 《閑話》とあるアイドルプロデューサーの休日
私は…夢を見ているのだろうか。
キラキラと降り注ぐ紙吹雪の向こうで、笑顔を浮かべている美しい人。ぼんやりと見つめているだけで、熱に浮かされてしまいそう。
そんな王子様のような人が、目の前に現れただけでも夢物語なのに。さらには、こんな私を変えようと手を差し伸べたのだ。
私は、少しでも変われましたか?
貴方の隣に立っても、恥をかかせてしまうような事はないですか?
そちらに、手を伸ばしても 良いですか?
馬鹿みたいに彼を見つめていると、後ろから人にぶつかられてしまう。
どん。と背中に受けた衝撃で、前へと蹴躓く。そんな私の体を、しっかりと抱き止めてくれて彼は言う。
『大丈夫ですか?』
言いたい事を、言える自分に 変わる事が出来たなら。それはどれほど素敵な事だろうと夢見てた。
町娘が、お姫様に憧れるようなものだ。でもそんな私を、変えてくれたのは貴方。
だから、伝えたい。
生まれ変わった自分が、初めて抱いたこの気持ちを。
「——好—になっ—— い—です—?」
私の言葉は、次に始まった音楽に掻き消された。よほど、耳が良い人間でなければ聞き取れなかったことだろう。
どっちだ。彼には、聴こえてしまっただろうか。それとも、伝わらなかっただろうか…
恐る恐る視線を上げると、彼は優しい微笑を その顔にたたえているだけだった。
何も言わないし、何も聞かない。ただ、笑っているだけ。
その顔を見て、悟ってしまった。
多分 私の言葉は、彼の耳に届いていたのだ。しかし、胸には届かなかったのだと。