第28章 く、食われるかと思った
「まぁなんにせよ。あいつの才能は本物だってことだ。
あーもう怖えよ!しばらく二階堂の奴とは会いたくねえ!」
『おや。珍しく弱気ですね』
「はぁ…そう言うなよ。あんたは至近距離で “ 入った ” 二階堂と対峙してねぇから分からねえんだ!
化け物だぜ、あれは」
『まぁ、明日も会いますけどね』
「だから言うなって…」
突き付けられた現実に、ガックリと肩を落とす楽。そんな彼を、もっと打ちのめす事になる存在が現れる。
それは、ノックの音と共に現れた。
「八乙女さーん、八乙女センパーイ、俺の演技どうでした?意見聞かせて下さいよー」
嬉々としてノックを連打する大和だ。
「〜〜っく、くそ!」
先程まで 会いたくないと言っていたにも関わらず、鍵を開けようと立ち上がる楽。
『しばらく会いたくないのでは?』
「お前も男なら分かるだろ。プライドがあるだろうが、こっちにもな」
分かりません。男のプライド問題などは。
会いたくないのなら、会わなければ良いのに。そう思ってしまう私は薄情なのだろうか。
しかし大和を迎え入れる楽の顔は、言葉とは裏腹に 嬉しそうにも見える。
自分のすぐ後ろを追い掛けてくる存在に怯えるのはごく自然なこと。
しかし 同レベルの好敵手の存在は、2人にとって決してネガティブなものだけではないのだろう。
笑顔で言い争う彼らの表情を見ていると、そんなふうに思えるのだった。