第28章 く、食われるかと思った
「それにしても二階堂が、あんな役者タイプだったとは予想出来なかったな」
『才能。ですかね』
「ああ。生まれ持ったものだろうな。それか、子供の時から演技に慣れ親しんできたか。だな」
やはり役者タイプ同士、通ずるものがあるのだろうか。
千葉氏の事を知らない楽が、いとも簡単に核心に触れた。
「演技の術を知ってる感じだったからな。
表情を作って、感情を引き出すのか。それとも、感情を作ってから、表情に出していくのか」
『…そういうものですか。演技とは』
「まぁな。でも、さっきのあいつのアドリブ部分は…そのどっちでもなかったぜ。
相手をした俺には分かる」
こっち方面に詳しくない私にも分かるように、楽は丁寧に説明してくれる。
「あれは “ 素の自分を、役に当てはめてる ” 」
『まとめると、あのアドリブは…
二階堂さんが過去、実際に経験した際の感情を体現した。って事ですか?』
「だろうな。つまりは、恋のライバルに あんな宣言をしちまうぐらいの恋愛をした事がある。もしくは…
現在進行形で、どうしても手に入れたい女でもいるんだろうな」
『……』
え…?だって、でもあれは…監督へのアピール、なのでは?
こんなにも演技の幅がある。こんなアドリブもこなせる。そういう事を監督に伝えたかったのでは?
「女を手に入れるのに、形振り構わないような男には見えなかったが。あいつも、俺と一緒なんだな…」
『そう、なんですかね』
大和がどういうつもりで、あんなアドリブを突然放り込んだのか。そして、大和を取り巻く恋愛事情。
どちらも、私が考えたところで正解などは分からない。
白か黒か、ハッキリしない事をずるずると考え続けるのは嫌いだった。
とりあえず、白黒付けなくてはいけない日が来るまで、保留だ。