第28章 く、食われるかと思った
『食われてはなかったんじゃないですか?貴方は主役として、彼のアドリブに応えられていたと思いますよ』
「……」
『それに、監督も褒めていた最後のシーン。あの表情は、私も素晴らしかったと思います。
何も言わず、じっとライバルの背中を睨む貴方の顔は鬼気迫るものがありま』
「何も言わなかったんじゃねぇよ。
何も…言えなかったんだ」
『……楽』
彼は、悔しそうに歯をくいしばる。私は、掛ける言葉を間違えただろうか。
すると今度は、嘲笑しながら呟いた。
「無口なお前が、ここまで喋ってフォローしなくちゃならねえくらい、ヤバかったか。俺の演技の出来は」
『あの、楽…私は』
「もういい。あんたに言葉選ばれたら、なんか余計に惨めになるぜ」
『食われたと思ったら、貴方 食われてましたね。って言います』
「言葉選べよお前」
弾かれたように顔を上げた楽。私はその顔をガシ!っと両手で掴む。
『楽の演技は、負けていませんでした。以上です』
「!!
はは、勝ってた。とは言わねえとこが腹立つけど、まぁ良しとするか」
『私、TRIGGERには嘘をつきたくないので』
「やっぱりマジで腹立つな」勝ってたって言ったら嘘になるってか
楽と大和の演技は、同列だった。それが私の個人的な感想だ。
ドラマや映画や舞台。数々の経験を経ている楽。
ドラマに少し出演した経験がある程度の大和。
この2人が並んで演技をして “ 同列 ” なのだ。
二階堂大和。これからが、本当に恐ろしい男である。