第28章 く、食われるかと思った
「あんたは、本当の彼女を分かってない」
「それは、どういう意味かな?」
「オレより長い時間を、近い距離感で、あいつと一緒にいるくせに。何も、分かってねえって言ってんだよ」
「分かってない、だって?随分と、好き勝手言ってくれるじゃないか」
大和の凄みは、楽のみならず、見ている人間全てを威圧した。私も、無意識に息を殺した。
彼の台詞から、ひしひしと伝わってくるのだ。
“ お前に彼女は渡さない ” “ 自分の方が彼女を愛している ” と。
風に白衣をなびかせ、暗に愛を語る彼からは、男としての魅力が溢れ出ていて。どうしたって目が離せない。
「確かに今は、お前の方が優位かもしれねぇけどな。それも今だけ。
何故なら、オレの方が、彼女を理解してやれるからだ」
「理解してやれる、だって?どうして、あなたにそんな事が言える」
「はは。それはな、オレと彼女は、似た者同士だからだ」
大和は、今度は楽しそうに笑って言った。彼がようやく緊張を解いた事で、場の空気が弛緩した。私達も、ようやく息を吸う事が許された。
いかに大和が、場の空気を支配しているかを、思い知らされる。
「あいつを手に入れるのは、オレだ」
「いや、僕の方が彼女を愛してい」
「自信があるんだよ。だってオレ、今まで欲しいと思ったもの、手に入れられなかったこと、ねえから」
小首を傾げて、そう宣言する大和。その視線は…こちらを見つめている、ような気がした。
いや、きっとカメラを見ているのだろう。私の側には、監督もいればカメラもある。
こんな完璧な決め台詞を、まさか私の方を見て告げるはずがない。
でも、それでも…
天才外科医の彼ではなく、二階堂大和という男に “ 逃さない ” と、まるで私が宣言されたような。そんな気持ちになってしまった。