第28章 く、食われるかと思った
「言っておかなければいけない事があるんだ」
「なに」
「…彼女を、デートに誘った」
楽は、コーヒーを啜ってから 長い長い息を吐いた。
夕陽を見つめる彼の目は、キラキラと輝いている。その瞳の輝きは、見る者全ての心を虜にしてしまう。
「は?何でわざわざ、それをオレに言うわけ」
「だって、あなたも彼女が好きだろう?抜け駆けは、したくないと思ったから」
「…オレはさぁ、あんたのそういう、真っ直ぐで綺麗で純粋で汚れてねえとこが 大嫌いなんだよ。
それはもう、滅茶苦茶に切り刻んでやりたいぐらいになぁ」
飲み終わったコーヒーの紙コップを、ぐしゃりと握り潰す大和。
楽を見る彼の目は、ギラギラと滾っている。その瞳の鈍い色は、見る者全てに息を飲ませる。
「べつに…僕は、綺麗でも純粋でもない!」
「なら、もう金輪際 綺麗事なんか吐くなよ。恋愛なんか、抜け駆けしてなんぼだろうが。
だから、もうオレに余計な事は言うな。あんたとの会話は、仕事関連だけで十分なんだよ」
「…分かったよ。あなたがそのつもりなら、もう何も言わない。
仕事の話はこれからも聞いてくれる。今はそれだけで十分だ。
ただ、最後に。これだけ教えてくれないか」
「なんだよ」
「もしも、オペか彼女か。どちらかを選ばなければいけないとしたら…
あなたは、どちらを選ぶ」
「……選べねえよ」
オペだけが生き甲斐で、人の体にメスを入れる事が唯一の存在意義だった彼。
その彼が、この二択に答えられないということは、それだけ彼女を真剣に愛しているという意味だった。
そして、最後に楽が “ やっぱりそうか ” と告げると、大和は屋上から去って行く。
それで、今日の共演シーンは終わりだ。
「やっぱり そうか」