第28章 く、食われるかと思った
「春人は俺の演技を見てどう思った?」
『私の意見なんて聞きたいんですか?こっちの畑に関しては、自分はズブの素人ですよ』
「いいから」
『…素直に凄いと思いました。貴方と同じ歳くらいのアイドルの中でも、群を抜いてるように思います。
アイドルで俳優。なんて言えてしまう人間は、貴方と千さんくらいなのでは?』
「お、千さんと名前を並べられるのは 悪くねえな」
楽と千。言わずと知れた、演技の出来るアイドル。
が、これは “ 現在 ” の話。
まだほとんどの人間が、知らないだけなのだ。
あの、巨匠 千葉志津雄の息子が、近付いて来ていること。
私には聞こえる。
二階堂大和が、この世界に歩みを進めている足音。ゆっくりと、着実に。
近い “ 未来 ”
きっと彼も、俳優としての頭角を現すに違いない。
楽と千の隣に、名を並べるか。いや、隣に並べるどころか もしかすると…
『次はいよいよ、二階堂さんとの共演ですね。楽、気を引き締めて』
「いよいよって。なんだ、えらく警戒してるな。気を抜くつもりはねえけど、俺とあいつ。どれだけ経験の差があると思ってるんだ?」
『主役の貴方が、彼に “ 食われ ” ないよう。気合いを入れて臨んでくださいね』
「は?」
ビュウ っと、突風が吹きぬける。
その風のせいで、階段と屋上を繋ぐ扉が、バン!と大きな音を立てて開いた。
その場にいる全員が、音に驚き 扉に注目する。
そこには、大和が立っていた。
黒シャツ、細身で黒のスラックス。シャツを着崩しノーネクタイだ。
風にたなびく白衣のポケットに手を突っ込んで、薄く微笑をたたえる彼は…
まるで、悪魔と契約した天才外科医のようではないか。