第28章 く、食われるかと思った
私が監督やスタッフと談話していると、衣装に身を包んだ楽がスタジオ内に入ってくる。
綺麗な白シャツをカチっと着こなし、オフホワイトのネクタイを身に付けている。下はグレーのパンツスーツで、そして輝く様な純白の白衣も、銀髪の彼によく似合う。
こんなにカッコ良い医者が存在してたまるか、とか 思わず思ってしまう。
とにかくそれくらい見た目の良いドクターだ。
「今週の土曜日、誕生日だろう?
その日は1日、どうか 僕にくれないか。
もしも君が頷いてくれるなら、絶対に後悔なんてさせないよ。
最高の1日にするって、約束するから」
私には、演技の技術は殆どない。全く勉強しなかった訳ではないが、いかんせん実践経験がゼロなのだ。
だから、断定的な事は何も言えないのだが。それでも やはり楽の演技は凄いと思う。
普段のキャラクターとかけ離れた人物を演じているにも関わらず、見る者に違和感を持たせない。
これまでに出演したドラマや映画で培った経験。あるいは失敗が、いま現在の彼を作っているのだろう。
生の楽の演技を見る度に感じる。凄いと思うし、尊敬出来ると。
2時間ほどを要し、いくつかのシーンを撮り終えた。次はいよいよ大和との共演である。
撮影場所は、屋上へと移る。少し風がある為、スタイリストが楽の髪をスプレーで固める為にやって来る。
「八乙女さんの演技、凄いですねぇ〜?私、思わず見入っちゃいましたよぉ」
「そうか?ありがとう」
「普段のクールな八乙女さんも素敵ですけどぉ、あのお医者さんの役みたいな、優しくて真摯なキャラクターも良いですねぇ〜」
「それに、色々な役にチャレンジ出来るのはありがたいしな」
スタイリストは、楽の髪先を指先で整えてから去っていた。私はそのタイミングで、彼の隣に立った。