第28章 く、食われるかと思った
「それよか八乙女、あんたまだ台本読み込んでる段階なのか?もしかして、まだ台詞覚えてないとか?」
「馬鹿言うなよ。覚えてるに決まってるだろ。念の為だ、念の為!
それにな、台詞の少ないお前と一緒にするんじゃねえよ」
いま撮影中のドラマは、楽が主役。そして大和がそのライバル役である。
ちなみに内容は、医療現場における恋愛ものだ。
ドジっ子新米ナースのヒロインを、楽と大和が取り合う構図。
楽は、院長の息子である内科医。性格は温和で優しく、そして爽やかな彼は、絵に描いたようなイケメン エリートドクターだ。
対する大和は、人を切るのが大好きな 流れの天才外科医だ。荒っぽく、歯に衣着せぬ物言いをする彼だが、男らしい魅力溢れる俺様ドクターである。
このタイプの違う医者2人。楽と大和がどう演じてくれるのか、今から楽しみである。
今日が初めての撮影日なわけだが、今から撮るのは第3話のシーン。
何故そんなことになったのかというと、ある重要な場面を撮る為に、美しい夕陽が必要不可欠で。しかし天気予報によると、明日からはしばらく雨が続くらしい。
従って、その夕陽シーンは 今日のうちに撮っておきたいのだ。
このようにドラマ撮影では、天気などに左右され、滅茶苦茶な順序で撮られるのは よくある事だ。
「そういえば二階堂。今日は1人で現場入りか?クランクインだってのに」
「ああ。俺達の事務所は、おたくのとこより小さいから。こんなのはザラなんだよ」
「そんなもんか」
「そうそう。だから、いつもプロデューサーと一緒に居られる八乙女が羨ましいわけ。
俺も春人みたいな優秀なの、欲しいよ。なんてな」
「はは!そうだろ。まぁ、絶対やらねぇけどな」
楽は満足そうに笑うと、再び台本に目を落とした。そんな彼を、大和は少しだけ恨めしそうな目で 見つめるのだった。
さて。そろそろ、撮影に向けて衣装に着替える時間だ。まずは出演シーンの多い楽の撮りから始まる。
大和は自分の楽屋へと戻り、楽との共演まで待機となる。