第28章 く、食われるかと思った
『四葉さんを、叱らないであげて下さいね』
「分かってるよ。どうせあんたの差し金だろ」
「??」
楽は、私達の会話に首を傾げている。一応はソファで台本を読み込んでいるふうを装っているが、しっかりと意識はこちらへ向いているようだ。
『そもそも、律儀にその眼鏡をかけて来たんですか?伊達なのに。よっぽど素顔を晒すのが嫌なんですねぇ』
「はは。言ってくれるなあ。一応スペアは持ってるんだけどな?あんたが “ コレ ” 見たいと思ってわざわざかけてきてやったんだ。感謝して欲しいくらいだわ」
『それに関しては素晴らしい読みです』
「満足して頂けましたか?お姉さん。あ、間違えた。
“ お兄さん ” だったな?」
『…………』
わざと言い違いをしてみせる大和。そんな彼の小さな報復に、楽はきっちりと反応する。
「おい二階堂。こいつを女と間違えるなんて、目が腐ってるんじゃねえのか?」
「その台詞、そのままそっくりあんたに返してやりてえよ」
大和の意味深な言葉に、楽はまたしても首を傾けた。そんな楽を置き去りにして、大和は再び私に向き直る。
「でさ、さっさと教えてくれないかねー 暗証番号。でないと俺、このままの状態で撮影よ?さすがに格好つかないでしょ」
『そんなに難しい番号には設定していませんよ?誕生日でも試してみたらどうです?』
「一通り試したんだけどな。俺のと あと一応、環のも」
『そうですか。では次は “ 貴方のお父様 ” の誕生日でも試してみては?きっと外れますよ』
「…俺も人のこと言えるわけじゃねえけど、お前さん 本当に良い性格してるわ」
嫌味の応酬の末、彼は小さく嘆いた。