第28章 く、食われるかと思った
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ファミレスで例の計画を立ててから、早いものでもう1週間経過。
そして昨夜、作戦の成功を知らせるメッセージが環から届いていた。
そういうわけで、私は柄にもなく顔が綻んでしまうのだった。
「春人、お前今日なんか変だぜ。ドラマの撮影がそんなに楽しみか?」
『私が楽しみにしているのは、撮影ではありませんよ』
「じゃあなんだよ」
『ふふ。きっともうすぐ、ここに二階堂さんが現れますよ』
「…は?お前、二階堂に会えるのが楽しみ なのか?おい、あんた一体どうしちまっ」
その時。私と楽が待機する この楽屋に、少し強めなノックの音が響いた。
私達は、同時に扉へと視線をやる。
扉の向こうに立つ人物。きっと楽も今、私と同じ人物を想像していることだろう。
『どうぞ』
「……どうも」
予想は的中。部屋に入って来たのは、怒りと悲壮感を顔に貼り付けた大和だった。
楽は、大和の異様な “ 眼鏡 ” に釘付けになって、思わず問う。
「に、二階堂…?お前、それどうした…。今はそういうのが流行ってんのか?」
「んなわけないだろ!」
『っ……く、…ふふっ』
私は彼らに背中を向け、必死に笑いを殺す。いま一瞬見ただけで、もう脳裏に焼き付いてしまったのだ。
眼鏡のブリッジ部分に装着された、南京錠が。
そして、律儀にその重そうな眼鏡をかけている大和の顔が。
「こんな重たい眼鏡が流行ってたまるかよ…」
「じゃあなんでそんなもん眼鏡にぶら下げてんだ?はっきり言って馬鹿みたいだぞ」
「さあ?理由なら、お前さんのとこのプロデューサー様にでも聞いてくれ」
よほど重いのだろう。頻繁に眼鏡がずり落ちて、南京錠が大和の鼻に当たる。そしてその度に、彼は眼鏡のブリッジ部分を持ち上げた。
それを目の当たりにする度に、私はまた込み上げてくる笑いと格闘するのだった。