第26章 居なくなっちまうんじゃねえの?
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「今日はこのスタジオに、なんと!あの大人気アイドル、TRIGGERの九条 天さんがいらしてくれていまーす!」
「よろしくお願いします」
今日は、天のソロ仕事。私はそれに付き添っている。
番組MCにマイクを向けられ、朗らかな笑顔と喋りで答える天。
彼を見守りながらも、大和に指摘された内容が 頭から離れない。
私が、エリが、消えそうになっている。
そして それを防ぐには、私が女である事を知っている、環や百、千との時間を設ける必要がある。
素の自分が分からなくなるなど、不思議であり得ないような話だが。私自身もそれを危惧していたところを、大和に指摘されたのだ。
もう認める他ないだろう。
「九条さんは、お休みの日などは何をされて過ごしているんでしょう?」
「オフの日は、歌やダンスのレッスンに時間を使う事が多いですね」
環も今や人気アイドルとなり、忙しくしている。ましてRe:valeの2人は、さらに多忙を極めているだろう。
そんな3人の貴重な時間を、私の為に使わせて良いのだろうか?
もっと言えば、私のオフの日と 彼らのオフの日が重なる確率は限りなく低い。
長時間、一緒に過ごすのは難しいだろう。
大和だって、今に忙しくなるに違いない。
『…はぁ』
(なんか、色々と考えるのが面倒になってきたな。もういっそ本当に春人として生きて、その一生をTRIGGERの為に捧げてやろうか)
若干、自暴自棄になってきた。
「さすがですね!九条さんのプロ意識には驚かされます!お休みの時でさえ、TRIGGERの事を思って努力されているのですね。
では、オフの日にお友達と出掛けたりはしないんですか?」
「そうですね…残念ながら、オフに2人で出掛けるような仲の良い人は、ボクには居なくて。
友達、凄く欲しいんですけどね」
私のオフは、TRIGGERメンバーのオフと合わせて決める事が多い。
もし仮に…私の秘密を天に話し、この悩みも打ち明ければ、天は協力してくれるだろうか。
そんな妙案が浮かんで来た事に、自分自身驚いた。
『…ありえない』
そもそも社長がそれを許すはずがないし、規約違反になってしまう。