第26章 居なくなっちまうんじゃねえの?
しかし…私は最近、時折考える事がある。
天は…
私の正体に気付いているのでは? と。
「お友達じゃなくても…、気になる異性とか デートに誘ったりしないんですか?」
「ははっ。まさか、そんな人いませんよ」
その時。天の視線が すぅっと私に移動した。しかし、それはすぐにカメラへと戻る。
一瞬の出来事だったので、もしかすると私の気のせいかもしれない。
「ボクの恋人は、ファンだけなので」ニコ
この笑顔の前には、MCの女性も、この場にいるスタッフも、テレビの前にいる全員が、もれなく骨抜きになっているに違いない。
「ありえない」
『………』
「アイドルに向かって、気になる人をデートに誘わないのかって。それも生放送で聞いてくるなんてね。MCとしては不適格だと言わざるをえない」
先程、甘い甘い笑顔を浮かべていた人間と同一人物だとは思えない。
私が人の事を言えないのは分かっているが、彼も なかなかである。
「ねぇ、聞いてるの?」
『…聞いてますよ。たしかに彼女の あの発言は頂けませんが、逆に天の素晴らしい笑顔とコメントを引き出してもらえたので、良しとしましょう』
「何か、あった?」
『え?』
いつもと変わらぬ様子を、装っていたはずだ。
しかし、天はしっかりと見抜いた。私の苦しい胸中を。
「話してみれば?
職場で腑抜けた顔されるくらいなら、面倒だけど悩み相談くらい聞いてあげても良いよ」
『…天、ありがとうございます。ですが、私の悩みなんて いつも決まって1つしかありませんよ』
「?」
『どうやって、TRIGGERの仕事を増やすか。いかに人気を上げるか。今まで手を出しづらかった方面への、新規開拓』
「相変わらずのTRIGGER馬鹿」
『そうですよ。私は常に、TRIGGERの為に強力なコネクションを……
あ 』
「どうしたの?」
重要な案件を思い出した。私としたことが、なんという大きな “ 忘れ物 ” をしていたのだろうか!
すぐにでも、大和に会いに行かなくては。大和に会って、それを頂戴しなくては。