第26章 居なくなっちまうんじゃねえの?
血の気の引いた私の頬に、大和の優しい手が触れる。
『!!』
「わるい。嫌な言い方した。脅かすつもりじゃなかったんだけどな。
あのな、大丈夫だから。
仮面をいくつも作って、それを器用に切り替え過ぎて、感情を作り過ぎて、本当の自分が分からなくなりかけてる。
言っちまえば、そんなの演者あるあるだからな。
俺も気持ちが分かるし、そういう人間も たくさん見てきた。
特殊な生い立ちだからな。
俳優とか女優とか。昔からそういう類の人間には事欠かねえんだわ。観察し放題ってやつ?」
大和は、私を安心させる為だろうか?千葉サロンをわざと皮肉って笑ってみせた。
自分からは触れたくない話題だろうに、私の為の冗談が 心に沁みた。
『…ありがとうございます。だいぶ落ち着いて来ました。
そうですよね、このままでも、別に死ぬわけでもありませんし。最悪、もう春人として生きていけば』
「え!?いや違う違う!なに豪快に諦めようとしちゃってんの!?こんな場所で自分の性別捨てる決意固めないでくんない!?
あーびっくりした」
『何か間違いましたか?てっきり、もう割り切って生きろという意味の 大丈夫 かと』
心底びっくりしたのか、大和は自分の心臓部分に手を当てていた。
「そんな事言ってないでしょ。全然違うから…
とにかく!あんたはもっと、自分を曝け出す時間を作った方がいい。
昨日話してくれただろ?あんたを女だって知る人間が、少なからずいるって。
えっと…誰だっけ。
前の事務所の社長と、八乙女社長と姉鷺さん。あとタマと、バーのマスターと、ダンサーのMAKA、Re:valeの2人か」
『すごい記憶力ですね』
「はいどうも。
で?この中で、あんたがエリとして、素の自分を晒け出せる人間は どれくらいいる?」
『そ、そう言われると…難しいですね』
「じゃあ質問変えて…。
2人で楽しくルンルンってショッピングにでも行けそうな奴は誰よ」
私は脳内で想像してみる。
とりあえず、社長2人とルンルン買い物に出かける……事は出来ない!
姉鷺は、意外と微妙なラインだ。そこそこ楽しめそうなのが怖い。
マスターとはカウンター越しの付き合いがちょうど良いし、MAKAは現在ロスにいるので物理的に不可能だ。
となると…