第26章 居なくなっちまうんじゃねえの?
翌朝。
ビシっと身支度を整え、スーツに身を包んだ私を見て、大和は泣きそうな顔で呟いた。
「……ガッカリ感が凄いんだけど」
『失礼ですね。おはようございます』
「はいはい、おはようさん。
はぁ…昨日の可愛いお前さんはどこに…」
腕時計をカチリとはめ、そのついでに文字盤を確認する。まだ早朝だ。大和も、急いでここを出なければ。という時間帯では まだないはず。
何時くらいにここを出るか。そう質問をしようと大和を見る。すると、彼の方がこちらを じっと見つめているのに気が付いた。
『…何か?』
「えっと。ちょっと真剣に聞いてもいい?
あんたさ、そのままの格好で 昨日の夜と同じように出来るか?」
『……??』
「平たく言えば、敬語無し。俺を大和って呼んで、心からの笑顔で笑えるのか って意味」
察しが悪い私に、大和は具体的に教えてくれる。
が。それは私にとって、容易にこなせる内容では無い。
しかし大和の真剣味がこちらにも伝わり、私ははぐらかさず答える。
『昨夜も話したと思いますけど、私はスーツを着て ウィッグを被って、一度 春人に “ 入る ” と、なかなか素には 戻れないん、です』
「………」
それでもなんとか、敬語をやめてみようと試みる。そんな私に大和は、より真剣な眼差しを向けた。
それにしても、なぜ大和は急にこんな事を言い出したのだろうか。まだ意図が汲み取れない。彼は、考え込んでしまっている。
しかし、やがて大和は重い口を開いた。
眼鏡のブリッジを持ち上げて、私に問い掛ける。
「あんたが春人に化けるようになったのは、TRIGGERのプロデューサーになった頃からか?」
『化けるとは、随分な言い方ですね』